毎年、実家の固定資産税は払っている。鍵も自分が持っている。だから、売るときも自分で手続きを進められると思っていた。ところが登記を取り寄せると、名義は亡くなった親、あるいは祖父母のまま——。売却準備で初めて気づくことがあります。
税金を払う人、家を管理する人、登記上の所有者は、必ずしも一致しません。家族の中で「この家はあなたが」と話していても、それだけで売却の準備が整ったことにはならないのです。
2027年3月末は、家を売る期限ではない
相続登記は2024年4月1日から申請が義務化されました。原則として、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請します。2024年4月1日より前から取得を知っていた未登記の相続については、2027年3月31日が原則の期限です。[1]
ここで大切なのは、登記の期限と売却の期限を混同しないこと。期限までに必ず家を売らなければならない制度ではありません。住み続ける、貸す、保有するという場合にも、相続登記の問題は残ります。
売却を考えているなら、買主探しに先立って名義を確認する価値があります。相続の経緯が複雑だと、価格の交渉とは別のところで日程が止まるからです。
先送りした家で、相続人が20人以上に増えた
難波みなみ法律事務所が2026年に公表した事例では、長年登記をしなかった不動産で相続が重なり、関係する相続人が20人を超えていました。同事務所は戸籍を調べて関係者を確定し、それぞれから協議内容の証明を集め、司法書士と連携して相続登記を終えたと報告しています。[3]
これは同事務所による事例紹介で、プライバシー保護のため一部が変更されています。確認できる結末は登記の完了まで。売却の成否や金額までは示されていません。
読み取れるのは、放置しても手続きが消えるわけではない、ということです。相続人が亡くなれば、その立場を引き継ぐ人が増えることがあります。家は一軒のままでも、連絡、書類、合意の手間は大きくなり得ます。
「家族は賛成している」の中身をそろえる
全員が売却に賛成でも、話を進めると意見が分かれることがあります。早く手放したい人、最低価格を守りたい人、片づけに時間がほしい人。賛成という言葉だけでは、同じ条件を思い描いているかはわかりません。
売却の窓口を一人に決めると連絡は楽になりますが、それだけでほかの権利者の同意や正式な手続きが不要になるわけではありません。誰がどの権利を持つかを専門家と確認し、そのうえで費用、希望時期、売却代金の扱いを話し合います。
思い出の品の整理も、契約直前に始めると慌ただしくなります。法律上の書類と、家族の気持ちの整理を並行して進めるほうが、売り急ぎを避けやすくなります。
話し合いが終わらないときの制度にも限界がある
遺産分割の話し合いがまとまらない場合などには、相続人申告登記という手続きがあります。自分が登記名義人の相続人であることを申し出て、申請義務への対応を図る制度です。[2]
ただし、誰が所有権を取得したかを確定する登記とは役割が違います。これだけで家を売れる状態になるわけではありません。また、一人が申し出ればすべての相続人の義務が自動的に解消する、という理解も避けましょう。自分たちに必要な申請を司法書士などに確認してください。
これから困らないために、書類を一つの場所へ
制度上の期限に対応しても、その後の家族の事情は変わります。今後、世代交代が進めば、離れて暮らす家族同士で家を扱う場面も生まれます。これは個別家庭の将来を予測する話ではなく、次の相続で同じ迷いを繰り返さないための備えです。
- 土地と建物それぞれの登記事項証明書を確認する。固定資産税の通知だけで判断しない。
- 亡くなった人、関係する家族、把握している遺言や協議書をメモにする。
- 売却希望時期と、まだ合意できていない点を書き出す。
- 登記は司法書士、争いがある協議は弁護士など、状況に合った窓口へ資料を持って相談する。
まずは、名義を見るところから
「相続の話をしよう」だと重く感じる家族にも、「売るかどうかは別にして、今の名義だけ確認しよう」なら切り出しやすくなります。判断を急ぐためではなく、選べる状態をつくるための一歩です。



