自宅を売ろうとしてハザードマップを開いたら、敷地に色がついていた。「これを見たら、誰も買わないのでは」。慣れ親しんだ場所が、急に違って見えることがあります。
ただ、地図の色は、物件の売れる・売れないを判定する印ではありません。何の災害を、どんな条件で想定しているのかを読み、実際の履歴や備えと一緒に説明するための情報です。
買主が気にするのは、色の理由と暮らしへの影響
2026年9月30日のSUUMOジャーナルは、一条工務店による水害への意識調査を紹介しました。調査の回答者の53.9%が水害への不安を感じているという結果です。これは回答者の意識を示す数字で、日本の住宅の53.9%が被災する確率という意味ではありません。[1]
買主にとって気になるのは、家の中まで水が来る想定なのか、避難できる場所はあるのか、電気や水道が止まったらどうなるのか。売主も同じ問いに沿って資料をそろえると、説明が具体的になります。
洪水、内水、高潮、土砂災害など、対象によって見る地図は異なります。一枚だけ見て「色がないから安全」と言い切るのも避けましょう。
2019年の浸水から、2023年の対策完成へ
川崎市では、2019年の令和元年東日本台風で浸水被害が発生し、市が原因を検証しました。その後、山王排水樋管周辺地域の対策としてバイパス管の整備が進み、2023年8月に完成したことが公表されています。[3][4]
災害が起きたという過去だけで、地域の状態がずっと同じとは限りません。一方、市はその後も段階的な対策を進めています。完成した設備があるから、あらゆる規模の雨に対して浸水しないという意味でもありません。[5]
ここで確認できる結末は、特定の対策が実施されたことまでです。対策によって周辺の売買価格が回復した、という因果関係はこれらの資料からはわかりません。売主の説明でも、防災の事実と価格の期待を分ける必要があります。
ハザードマップと浸水履歴は、別々に調べる
ハザードマップは想定条件に基づく情報です。過去に浸水したことがないから想定を無視できるわけではなく、想定区域に入っているから過去に必ず被災したとも限りません。
敷地や建物の履歴については、自分が把握する範囲の記録、自治体の公開資料、管理組合の資料などを確認します。被害があった場合は、日付、場所、浸水の程度、修繕や設備交換の内容を整理します。曖昧な記憶は、確認済みの事実と分けておきましょう。
マンションでは住戸が高層階でも、共用設備や出入口が影響を受けることがあります。自室の階数だけでなく、電気設備の位置や対策、避難の経路など、建物全体の備えを管理会社に確認すると説明に厚みが出ます。
契約の説明を待たず、検討の材料を用意する
2020年8月28日から、水防法に基づく水害ハザードマップ上の物件の所在地は、宅建業者による重要事項説明の対象になっています。地図に示す区域の外でも、水害リスクがないと誤解させないようにすることが大切です。[2]
正式な説明は仲介会社が行いますが、売主が知る浸水や修繕の情報は、早めに担当者へ渡します。買主が契約直前に初めて知るより、検討の途中で資料を読めるほうが、必要な質問を整理できます。
対策工事を紹介するときは、計画中・工事中・完成済みを区別します。自治体の発表日も添えると、古い計画を現在の状態だと思い込むのを防げます。
これからの売却で、準備できること
今後、被害の発生や地図の改定によって、買主が重視する情報は変わる可能性があります。地域の対策、建物の備え、保険や復旧の負担まで確認したい人もいるでしょう。色だけから将来の売値を予測するのは難しいため、更新された資料で相談することが重要です。
- 自治体の最新のハザードマップで、対象の災害と更新日を確認する。
- 把握している浸水履歴と、修繕・設備交換の記録をまとめる。
- 地域と建物の対策を、完成済みと予定に分ける。
- 不明な点は不明と記し、仲介担当者と追加の確認先を決める。
買主へ渡す一枚をつくる
地図の出典と確認日、知っている被害、実施した修繕、現在の備えを一枚に。安全を約束する紙ではなく、相手が自分で判断できる材料を渡すための紙です。


