実家の玄関を開けると、使わなくなった家具と、古くなった壁紙。「これでは買う人がいないだろう。壊して、すっきりさせたほうがいい」。そう考える前に、解体の見積書を少し脇へ置いてみてください。
壊すと元には戻せません。売値が上がっても、解体や片づけにお金がかかれば、手元に残る額は変わらないこともあります。最初にしたいのは解体の決断ではなく、建物を残す案も含めた比較です。
三つの売り方は、買主に渡すものが違う
中古住宅として売る場合は、建物を利用する前提で探す人が主な相手になります。修繕や改修が必要でも、その費用を含めて予算に合えば検討される可能性があります。ただし、状態や立地によって需要は異なります。
古家付き土地として売る場合は、土地を中心に評価し、建物の扱いを買主と相談します。残すか壊すかを選べる一方、解体の費用負担や引き渡し条件を明確にする必要があります。更地にして売る場合は、売主が先に解体の費用と段取りを負担します。[1]
この三つとは別に、仲介で一般の買主を探すか、不動産会社へ直接売るかという選択もあります。「古家付きだから買取だけ」と決まるわけではありません。
築50年の実家を、片づけの負担ごと相談した例
SUUMOが紹介した佐倉市のNさんは、相続した実家を約7年間空き家にしていました。地元の不動産会社から家財処分などを含む提案を受け、2022年5月に400万円で契約。売却後は管理への心配から解放されたと話しています。[2]
この例では、長い付き合いのある事業者との信頼関係も背景にありました。同じ築年数なら同額で売れるという話ではありません。また、売却後に建物がどう利用されたかは、この記事からは確認できません。
注目したいのは、売主が先にすべてを片づけ、解体しなくても成立した取引だということ。受け取る価格と、引き受けてもらえる作業を一緒に見れば、見積もりの意味が変わります。
売値ではなく、増えた費用を引いて比べる
たとえば、建物を残す案の売値が700万円、更地案が1,000万円とします。更地案に解体費250万円と、残す案より余計にかかる保有・手続き費50万円を見込むなら、比較上はどちらも700万円です。
これは判断方法を示す仮の数字で、解体費や相場の目安ではありません。共通する仲介費用や税金なども、実際の手取り計算では別途差し引きます。売値に差がある案は、最終的な税負担にも違いが出る可能性があります。
見積書では、建物本体だけでなく、庭木、塀、残置物、地中にある物の扱い、追加費用の条件も確かめます。最初の金額だけを並べるより、「どこまで含むか」を合わせたほうが比較しやすくなります。
壊す前に確認する、建て直しと税金
古い家が建っていても、現在の条件で同じように建て直せるとは限りません。接道などの条件を、仲介会社や自治体の建築担当窓口で確認します。再建築の制約を知らずに壊すと、売り方の選択肢を減らすおそれがあります。[1]
税金も確認が必要です。住宅の取り壊しにより、土地の住宅用地の特例が適用されなくなり、翌年度の土地の税負担が上がる場合があります。一方で家屋への課税はなくなるため、税金全体が一律に何倍になるとはいえません。所在地の税務窓口で試算を確認しましょう。[3]
相続した空き家の売却には、条件を満たすと譲渡所得の特別控除を受けられる制度もあります。建物の条件、利用状況、売却や取り壊しの時期などが関係するため、工事の発注前に税務署や税理士へ確認しておくと、順序の行き違いを避けやすくなります。[4]
これからの需要は、建物の古さだけでは読めない
今後、新築費用が高い状態が続けば、使える部分を残して改修する住宅を選ぶ人が増える可能性があります。ただし、改修費も高く、地域に需要がなければ、古家を残す案が有利とは限りません。
地元で実際に古い家を扱った会社に、建物を利用した成約例と更地の成約例を両方聞いてみましょう。答えが違う場合は、想定する買主や費用が違わないかを確かめます。
発注前にそろえる三つの数字
中古住宅・古家付き土地・更地について、それぞれの成約見込み額、売主負担の費用、見込む期間を一枚に。解体の見積もりは、その比較表ができてから使う判断材料です。


