同じマンションの一室が、自分の予想よりずっと高い値段で広告に出ている。「うちも、そのくらいで売れるのでは」。そう思うのは自然です。でも数カ月後、その部屋の広告がまだ掲載されていたら、少し違う見方が必要になります。
画面に見えているのは、売主が売りたい価格。誰かが実際に支払った価格とは限りません。売却の出発点でこの二つを分けるだけで、値下げのたびに落ち込むような進め方を避けやすくなります。
広告には「まだ売れていない家」が集まる
売出価格は販売中の希望価格、成約価格は売主と買主が合意した価格です。さらに査定価格は、不動産会社が条件や事例から見積もった価格。この三つは役割が違います。
条件に見合った物件が早く売れれば、その広告は消えます。一方、強気の価格で待っている物件は長く残ることがあります。毎日同じサイトを見ていると、残っている高値に目が慣れてしまう。そこで「周りはみんなこの値段」という印象が生まれます。
2026年9月のIESHILの解説も、売出価格と成約価格の動きの違いを取り上げています。ただし、二つの平均の差を、そのまま個々の物件の値引き率と読むことはできません。集計対象の広さ、築年数、場所が同じではないからです。[1]
上昇の数字を見た半年後、違う数字が出た
東日本レインズの2026年2月集計では、首都圏中古マンションの平均成約価格は5,458万円、前年同月比9.5%上昇でした。同じ月の在庫物件の平均価格は6,168万円。ここでも「710万円引きで売れた」という意味ではありません。[2]
その後、9月14日付の日刊不動産経済通信が伝えた8月の全国集計では、中古マンションの平均成約価格は4,047万円、前年同月比2.79%下落。首都圏も前年同月を下回っています。全国と首都圏の数値をつないで一本の推移にはできませんが、春に見た上昇記事を秋の値付けにそのまま使えないことはわかります。[3]
これで全国的な下落局面が確定したともいえません。売れた物件の構成や季節で平均は動きます。自宅に近い条件の取引がどう変わったかを、もう一段小さな範囲で見る必要があります。
比べたいのは、近所の「似ている成約」
不動産会社には、最近の成約事例を数件出してもらいましょう。同じ駅でも徒歩5分と15分、同じ面積でも低層階と眺望の良い高層階では、買主の比較相手が変わります。
見る順番は、成約時期、立地、面積、築年数、階数や向き、室内の状態。条件が違うときは、違いをどう価格に織り込んだかまで聞きます。「人気の場所なので」という説明だけで終わらせないことが大切です。
売出中の競合も役に立ちます。ただし、こちらは「今、買主がほかに選べる家」を知る資料。過去の成約は到達点、今の広告は競争相手として並べると、使い分けがはっきりします。
値下げの前に、反応が止まる場所を探す
広告を見られていないのか、見られるのに問い合わせがないのか、内覧はあるのに申し込みがないのか。同じ「売れない」でも、直す場所は違います。
- 閲覧が少ない:掲載先、写真、検索条件に入る価格帯を確認する。
- 問い合わせが少ない:間取りや管理費、周辺環境など、判断に必要な情報の不足を探す。
- 内覧後に進まない:価格のほか、室内の状態、修繕、引き渡し時期への反応を聞く。
たとえば販売開始から2〜4週間で一度振り返る、と担当者と決めておきます。これは一律に値下げする期限ではありません。地域の取引量や売却を急ぐ事情によって、適切な間隔は変わります。
これからは「相場が上がるまで待つ」の中身を考える
今後、買主の予算が伸びず、売主の希望だけが高止まりすれば、販売期間が延びる可能性があります。反対に、供給が少なく需要が強い場所では、条件の良い家の価格が維持されることも考えられます。これは市場データを踏まえた見方で、個別価格の予測ではありません。
待つ間にも管理費やローン、次の住まいの費用は発生します。希望額で半年待つ案と、価格を調整して早く住み替える案を、売却代金だけでなく手元に残るお金で比べてみてください。
今日やっておきたいこと
気になる近隣広告を3件保存し、担当者に「この3件に対して、うちを選ぶ理由は何ですか。最近の成約と比べるとどうですか」と聞く。価格を当てる作業が、売り方を考える相談に変わります。


