古い家だから、傷みもある。買主もそれを承知している。「現状渡し」と契約に書けば、引き渡した後の心配はなくなる——そう思っていたら、危険な見落としがあるかもしれません。
現状のまま渡すことと、知っている不具合を伝えなくてよいことは別です。とりわけ雨漏りのように、晴れた日の内覧ではわからない問題は、売主が持っている情報の重みが増します。
売買価格350万円の家で、404万円余の賠償
不動産適正取引推進機構が紹介した東京地裁2022年2月17日判決は、2019年に売買された投資用の戸建てをめぐるものです。売買価格は350万円。売主は入居者から雨漏りの報告を受けていたのに、買主へ知らせず、雨漏りがない趣旨の説明をしていました。裁判所は404万円余の損害賠償を認めました。[1]
売買価格を上回る数字は印象的ですが、「古い家に雨漏りがあれば、この額を払う」という相場ではありません。事案には、売主が問題を認識していたことや説明内容など、個別の事情があります。
この判決から考えたいのは、修理費の大小だけではなく、相手の判断に関わる情報を持ちながら伝えなかった行為の重さです。
当時の裁判と、今のルールを分けて読む
この売買は2020年4月の改正民法施行より前の契約です。そのため、判決の整理をそのまま現在の「契約不適合責任」の説明に置き換えることはできません。雨漏りを故意に告げなかったことなどが問題になった事例として読む必要があります。
現在の民法でも、責任を負わない旨の特約をしたからといって、知りながら告げなかった事実について当然に免責されるわけではありません。民法572条は、そのような場合に特約だけでは責任を免れないことを定めています。[2]
一方で、責任の内容は売主の立場、契約の文言、買主へ説明した内容などによって変わります。「現状渡し」「契約不適合責任を免責」といった短い表現だけで、何が対象かを判断しないようにしましょう。
告知書では「ない」と「知らない」を分ける
長く住んだ家でも、床下や屋根のすべてを知っている人はいません。相続した家なら、親から聞いたことと、自分で確認したことも違います。わからない欄を埋めたいからといって、根拠なく「なし」と書くのは避けたいところです。
整理の仕方は三つです。現在把握している不具合、過去に起きて修理した不具合、確認していない部分。仲介会社の書式に合わせつつ、この違いが伝わるように説明します。
雨漏りを修理したなら、いつ、どの部位を、誰が直したか。その後に雨が降ったときの状況を、把握している範囲で添えます。修理済みだから過去の履歴は不要、と自分だけで判断しないことが大切です。
写真と請求書は、家の履歴になる
修理業者の請求書、点検結果、工事前後の写真、管理会社とのやり取り。別々の場所にある資料を、日付順にまとめてみてください。買主への説明を具体的にでき、担当者も事実を確認しやすくなります。
口頭の記憶しかない場合は、そのことも伝えます。「何年ごろだったと思う」「親から聞いたが書類はない」と、確実な情報と推測を分けるほうが、後から話が変わったように見えるのを防げます。
説明をした記録も残しましょう。いつ、どの資料を渡したかを確認し、契約書や告知書の内容と食い違いがないか、契約前に担当者と読み合わせます。
調査は役に立つ。ただし、無欠陥の保証ではない
建物状況調査は、状態を確認する材料の一つになります。ただし、調査したから隠れた不具合まで一切ないと保証されるわけではありません。国土交通省も、既存住宅状況調査は瑕疵の有無の判定や、瑕疵がないことを保証するものではないと整理しています。[3]
調査で確認した範囲と確認できなかった範囲を読み、以前の修繕履歴も一緒に示すことが大切です。すでに知っている問題を、調査報告書に書かれていないからと省く理由にはできません。
今後、築年数の経った住宅を売り継ぐ場面では、設備の新しさだけでなく、状態と履歴を説明する資料が役立つと考えられます。記録があれば必ず高く売れるという予測ではなく、認識の食い違いを減らすための備えです。
売り出す前の30分
家の不具合を「今ある」「直した」「未確認」の三つに分けてメモを作り、関連する写真や書類を一か所へ。隠すか直すかの二択にせず、事実を伝えて条件を相談するところから始めましょう。


