家が高く売れるなら、会社を辞めて地方へ行けるかもしれない。そう考えたとき、頭に浮かぶのは新しい庭や窓からの景色でしょうか。それとも、月曜日の朝の過ごし方でしょうか。
家の売却が働き方を変える資金になることはあります。ただ、売却代金は一度きり。これからの暮らしを支えるのは、その資金をどう使い、毎月の収入と支出をどう組み立てるかです。移住後の生活まで描かれた事例から考えます。
「東京ではお金を消費しなければ一日が埋まらなかった」
SUUMOジャーナルの取材より一部引用(2026年9月21日)
マンションを売り、2年間学んで、別の仕事に就いた
SUUMOジャーナルの2026年9月の取材では、東京のマンションを購入時より高い価格で売り、岐阜へ移住した石垣勇さんが紹介されています。森林文化アカデミーで2年間学んだ後、林業に関わる仕事へ就職。移住から年月を経て、残業がなくなった一方、古民家の湿気や草刈りなどの手間も語っています。[1]
この事例の面白さは、売却成功の場面だけで話が終わっていないことです。仕事は変わり、日々の手間も変わった。それをどう感じるかまで伝わってきます。ただし、売却の諸費用を引いた利益や、移住前後の詳しい家計は公表されていません。
同じように家を売れば同じ暮らしが手に入る、とは言えません。自分の場合は何が変わるのかを、「引っ越す前」「学び直す間」「働き始めた後」に分けてみましょう。

学費より先に、収入が少ない期間の生活費を見る
学び直しを伴う移住では、授業料だけを準備しても家計は完成しません。家賃、食費、車、保険、通信費に加え、引っ越しや新生活の初期費用がかかります。学ぶ期間に収入がどれくらい見込めるかも別に考えます。
森林文化アカデミーの現行案内では、森と木のクリエーター科の入学金と2年間の授業料の合計は135万3,600円。別に修学経費の目安が示されています。これは2026年10月9日に確認した学校の案内で、石垣さんが当時払った金額ではありません。[2]
家計を考えるための仮の例として、毎月の不足額が15万円なら、24カ月で360万円です。ここには学費や引っ越し代を含めていません。小さく見える月々の不足も、学ぶ期間全体では大きな金額になります。
売却代金を、三つの置き場に分ける
売却価格からローン残高や売却費用、必要な税金を引いた手取りを出発点にします。そのうえで、移住時に使うお金、収入が安定するまでの生活費、予定が変わったときに残すお金を分けておく方法があります。
たとえば古民家を現金で買えば毎月の家賃はなくなりますが、手元の資金は減ります。改修が必要になったとき、就職まで時間がかかったときに対応できるか。購入価格の安さと、資金を残せる安心は別の項目です。
最初は賃貸や短期滞在で生活を試す案も比較できます。住まいを二度動かす費用はかかりますが、仕事や地域との相性を確かめてから購入する判断に価値を感じる人もいるでしょう。

休日の好きな作業を、平日にも続けられるか
庭の手入れや家の修繕は、楽しみになる人も、負担になる人もいます。旅行先で一日体験することと、雨の日や疲れた日に自分で引き受けることでは感覚が変わります。
現地では観光の予定だけでなく、スーパーへ行く、通勤予定の道を走る、洗濯物を干す、診療時間を調べるといった普通の用事を入れてみましょう。家族がいるなら、一人の仕事だけでなく、同行する家族の仕事や移動も一緒に考えます。
うまく定着しなかった場合も想定し、「この条件なら住み直す」と話せる余白を残します。本記事で紹介した人が再転居したという意味ではありません。自分の計画に退路を用意する、という提案です。
10年後も同じ働き方とは限らないから
売却と移住を一度の大きな決断にまとめると、後から変えにくく感じることがあります。しかし、体力、家族の事情、仕事の内容は変わります。将来の収入増を前提にせず、仕事を減らす場合や車を使いづらくなった場合にも生活が続くかを考えておくと、計画の弱いところが見えてきます。
ここで知りたいのは、都会と地方のどちらが得かという一般論より、自分の一週間がどう変わるかです。通勤で失っていた時間を取り戻せても、別の家事や管理に時間を使うかもしれません。その変化を望んでいるかが、売却後の納得につながります。

「次の家」より先に、一週間を書いてみる
移住後の平日と休日を、起床から就寝まで書き出します。その隣に毎月の生活費と、収入が少なくても過ごせる月数を置いてください。家の売値を聞くとき、自分に必要な手取りの意味が変わってきます。


